かんらん岩

体積にして地球の約80%をマントルが占めています。マントルのうち、深さ約400kmまでを上部マントルといいますが、その上部マントルはかんらん岩と呼ばれる岩石で構成されています。地表ではあまり見ることのない岩石ですが、地球全体で考えた時、かんらん岩は非常に重要です。サイエンスプロムナードでは異なる深さに起源するかんらん岩を2つ展示しています。かんらん岩を構成している鉱物の種類や化学組成から、その岩石が形成された深さや成因などが読み取ることができます。

 かんらん岩は火成岩の一種です。岩石の中には火成岩・堆積岩・変成岩がありますが、その中でも火成岩はマグマが冷えて固まることでできる岩石のことを指します。 

 図1は火成岩の分類についてまとめたものです。火成岩は更に火山岩と深成岩に分けられます。火山岩は地表や地表付近でマグマが急冷されて形成された岩石深成岩は地下の深い所でマグマがゆっくりと冷え固まった岩石です。 

火成岩は、二酸化ケイ素の含有量によって塩基性岩、中性岩、酸性岩に細分されます。また、この順に含有される無色鉱物が増加し、有色鉱物が減少します。図1の通り、かんらん岩は塩基性岩よりも二酸化ケイ素に乏しく、超塩基性岩と呼ばれます。そのため、無色鉱物に乏しく、有色鉱物に富む特徴を持っています。


[図1] 火成岩の分類図

[図2] かんらん岩の分類

 かんらん岩はその名の通りかんらん石を多く含み、他に輝石も主要鉱物として認められています。また、僅かにスピネル、ザクロ石、角閃石、雲母、斜長石といった鉱物を含むこともあります。  


 かんらん岩は、含まれる鉱物の割合によって細分化されます。図2はかんらん石(Olivine) と、結晶構造と化学組成が異なる2種類の輝石である斜方輝石(Opx)、単斜輝石(Cpx)の3種の鉱物の体積%による岩石の分類図です。図2で示してあるように赤い枠線で囲っている範囲がかんらん岩となりますから、かんらん岩にはかんらん石が40 vol%(体積%のこと)以上含まれていることになります。単斜輝石も斜方輝石も含んでいるかんらん岩のことをレールゾライト斜方輝石を含み単斜輝石に乏しいかんらん岩ハルツバージャイト単斜輝石を含み斜方輝石に乏しいかんらん岩のことをウェールライトかんらん石からなるかんらん岩のことをダナイトと呼んで区分します。 


岩石というのは一般的には様々な鉱物によって構成されています。鉱物は種類によって異なる物理特性を持っています。鉱物には融けやすい鉱物と融けにくい鉱物があります。従って、岩石が融ける場合、ある鉱物は融けているのに、別の鉱物は融けていない、という現象が起こります。こうした現象のことを部分溶融と言います。 

かんらん岩を構成する鉱物の中ではかんらん石が最も融けにくい鉱物です。逆に単斜輝石は融けやすく、斜方輝石はその中間になります。地球の上部マントルは元々その殆どがレールゾライトであったと考えられています。レールゾライトの部分溶融が進むほど、かんらん岩はハルツバージャイト→ダナイトと変化していきます。 


 地球内部探査で用いられる地震波の波の伝わる速度に基づくと、地球のマントルはかんらん岩によって構成されていると推測されています。地球表層は地殻で覆われていますので、大陸では地表からマントルまで約40km、海洋でも7kmの深さにあります。かんらん岩は私たちの生活からは少し遠い存在の岩石と言えるかもしれません。しかし、かんらん岩は地球にとって非常に重要な岩石です。  


 通常、岩石は非常に固い物質ですが、非常に長い年月をかけることによって岩石は流動する性質があります。このような性質によってマントルはゆっくりと地球内部で流動していると考えられています。地球内部には膨大な熱が蓄積されており、その熱によって対流を起こしているためです。このマントルの対流こそがプレートテクトニクスの原動力となっていると考えられているのです。この対流運動によってマントルの深いところから浅い所へ流動したマントルは、減圧の効果により部分溶融を起こします。そしてマントルが溶けることによって形成されるのがマグマです。マグマの冷却によって、新たに地殻が形成されることになります。このように、マントルは地球惑星のダイナミクスをつかさどる重要な領域であり、マントルに由来するかんらん岩を調べることによってその詳細を理解することができます。  


サイエンスプロムナードの正面入り口左側には2つのかんらん岩が置かれています。1つが斜長石かんらん岩、もう1つがかんらん岩です。両者共に北海道様似町にある幌満かんらん岩体より産出したものです。


幌満かんらん岩体の存在する日高山脈周辺は、1300万年前は北米プレートとユーラシアプレートのプレート境界であったと考えられています(図3)。両プレートは日高山脈周辺で衝突し、北米プレートがユーラシアプレートにめくりあがる形で乗り上げることとなりました。こうしてのし上がった北米プレートの残骸が日高山脈であり、日高山脈西側には上部マントルを構成していたかんらん岩が広く確認されます。このかんらん岩が幌満かんらん岩体です。


[図3] 約1300万年前の北海道周辺と、日高山脈の断面図

2種のかんらん岩は、起源する深さが微妙に異なっています。「斑れい岩層を含む斜長石かんらん岩」は斜長石が多く、高圧では斜長石はかんらん石と共存することができないため、比較的浅部に由来する岩石であることが分かります。図1を確認していただければ分かりますが、かんらん岩に斜長石が多く含まれるようになれば、やがて斑れい岩になります。展示試料でも白色の鉱物が濃集している場所が確認できると思いますが、この鉱物は斜長石であり、従って白っぽい箇所は斑れい岩ということになります。こうした斜長石は、より深部の上部マントルが部分溶融を起こして形成されたマグマが上昇、冷却されることで斜長石が結晶化し、それらが集積することで形成されたと考えられます。下部地殻は斑れい岩から成るので、斑れい岩とかんらん岩の混じったこの岩石は、丁度マントルと地殻の境界付近に由来する岩石といえます。

 一方で「かんらん岩」には斜長石のような白っぽい鉱物は確認されません。代わりに紡錘形のチョコレート色のものが観察されるかと思います。この構造はシンプレクタイトと呼ばれるものであり、スピネル・斜方輝石・単斜輝石の集合体です。シンプレクタイトはかつてざくろ石だったものが、マントル物質の上昇に伴って減圧、不安定化して分解反応を起こしたものです。高圧で安定なざくろ石は、低圧環境では、かんらん石と以下の化学反応を起こします。 


かんらん石+ざくろ石→スピネル+斜方輝石+単斜輝石


この反応の結果生じる、右辺の鉱物の集合体がシンプレクタイトというわけです。通常、シンプレクタイトは数 μm-数百 μmのスケールで三種の鉱物が虫食い状に入り乱れる構造となっています(図4)。

「かんらん岩」にシンプレクタイトが含まれるということは、その岩石が元々ざくろ石が安定するような深部(約50 km以深)に由来するものであるということを意味しています。そして、その後50 kmよりも浅い所までこの岩石は上昇してきたという過程を理解することができるのです。


[図4] シンプレクタイトの拡大写真(偏光顕微鏡)

展示試料の「かんらん岩」には他にも淡緑色のかんらん石暗緑褐色の斜方輝石濃緑色の単斜輝石が確認されます。これら3つの鉱物が確認されるため、この「かんらん岩」はレールゾライトに分類されます。しかし、展示試料の中央部ではシンプレクタイトが確認されず、単斜輝石も乏しくなっていることから、ハルツバージャイトに分類できます。ハルツバージャイトの部分では部分溶融によって多くの単斜輝石が融けだしてしまった、と考えられます。

この「かんらん岩」は「斑れい岩層を含む斜長石かんらん岩」よりも深い所に起源すると考えられます。「かんらん岩」には部分溶融を経験した痕跡が確認されましたが、そうした部分溶融によって生じたマグマが、より上部の方で「斑れい岩層を含む斜長石かんらん岩」を形成したのでしょう。


[図5] かんらん岩に含まれる鉱物

[図6] 各かんらん岩の起源。

「斑れい岩層を含む斜長石かんらん岩」は1、「かんらん岩」は2の付近が起源と考えられる。

コラム


[図7] サイエンスプロムナード前の花崗岩

[図8] 花崗岩中にみられる捕獲岩

今回解説したかんらん岩の向かい側には赤色の石材が確認されるかと思います。この石材は花崗岩と呼ばれる岩石で、SiO2に富む酸性岩ですから、超塩基性岩のかんらん岩とは含まれている鉱物が大きく異なっています。ここの花崗岩は主に灰色の石英白色の斜長石赤色のカリ長石黒色の黒雲母・角閃石で構成されています。この花崗岩はカリ長石が多いため全体的に赤っぽくみえます。こうしたカリ長石が多い花崗岩というのは大陸で産する花崗岩の特徴です。日本のような島弧で産する花崗岩はカリ長石が少なく、白っぽい見た目をしています。

 また、サイエンスプロムナード前の花崗岩では、花崗岩とは明らかに異なった構造をしている岩片を幾つか確認することができます。これは花崗岩の元になったマグマが地下から運搬してきた捕獲岩です。機会があれば探してみて下さい。


参考文献

様似町アポイ岳ジオパーク推進協議会,「2. 衝突によって生まれた日高山脈とアポイ岳」, 参照 2023/08/24, UNESCO Global Geopark Mt. APOI