偏光顕微鏡

 偏光顕微鏡は、複屈折などの鉱物の光学的特性を巧みに利用した、主に岩石中の鉱物を観察するための顕微鏡です。サイエンスプロムナードの床展示画像では、「光の干渉」によって生み出される鉱物の干渉色が、様々な色彩で観察することができます。このような色鮮やかな鉱物の干渉色を始め、偏光顕微鏡から得られる様々な光学的性質から岩石中の鉱物を同定することができます。

 偏光顕微鏡で見る岩石の世界は、まるで万華鏡のようです。そんな美しくも奥の深い偏光顕微鏡に少しでも興味を持っていただけたら幸いです。 

 ここで展示している画像は、岩石薄片試料を偏光顕微鏡と呼ばれる特殊な顕微鏡で撮影したものです。偏光顕微鏡を使い鉱物の光学的性質を観察することによって鉱物の同定を行うことができます。といっても、偏光顕微鏡に馴染みのある方はそれ程いないかもしれません。ここでは偏光顕微鏡の原理について解説したいと思います。


そもそも偏光顕微鏡の「偏光」とはなんでしょうか。光は波と同じ性質を持つ、ということはよく知られています。波の波長によって、私たちが観察できる色も異なっていましたね。しかし、波の要素は波長だけではありません。もう一つの波の要素は波の振動方向です。図1では、波長の同じ赤色で描かれた波と青色で描かれた波が見られます。それぞれの振動方向は、赤色の波ではy軸方向に平行に、青色の波ではx軸方向に平行になっています。このように、波の振動方向が規則的(この場合は1方向に決まっている)な状態の光のことを偏光といいます。


[図1] 偏光

一般に私たちに身近な光(太陽光や照明など)は無偏光、つまり振動方向がランダムです。このような無偏光な状態を偏光状態にする、偏光板と呼ばれる不思議な板(フィルター)が存在します。振動方向のランダムな光が偏光板を透過すると、1方向に振動する光を取り出すことができます(図2)。一方、偏光板の方向(緑の矢印)以外の方向に振動する光(図2のy軸方向以外の方向)は偏光板に遮断されて、透過することはできません。従って、偏光板を通過した光の明るさは減少することになります。


[図2] 偏光板を通した光の変化

こで、方向の直交する2枚の偏光板を重ねた場合を考えてみましょう。この場合、1枚目の偏光板を透過した偏光は、次にその振動方向と直交する方向の光しか通さない偏光板に当たることになります。これでは2枚目の偏光板を光が通過することはできないので、光は完全に遮断されることになります(図2, 3)。


[図3] 直交する2枚の偏光板

偏光顕微鏡とは、簡単に言えばこの偏光板の特性を活かした顕微鏡のことです。偏光顕微鏡は主に岩石を観察する際に使用されます。その際、岩石を「薄片」と呼ばれる状態に加工する必要があります(図4)。薄片とは岩石を薄く切り出し、スライドガラスに張り付けたものを0.03 mmまで薄く研磨したものです。光を透過させるほど非常に薄いため、顕微鏡下での観察に適しています。


[図4] 薄片

図5では偏光顕微鏡の構造が示されています。一般的な光学顕微鏡とは異なる箇所がいくつかありますが、重要なのは「偏光板の位置」だけです。図5で下方ニコル上方ニコルと書かれている箇所がそれぞれ偏光板となっています。下方ニコルと上方ニコルの偏光板の方向は常に直交しており、上方ニコルは出し入れ可能な構造になっています。光源から接眼レンズまでの光路は、「光源→下方ニコル→試料→上方ニコル→接眼レンズ」となることが分かるかと思います。


偏光顕微鏡では上方ニコルを入れた状態と出した状態で観察を行うことができ、それぞれの状態で鉱物の光学的性質を観察します。まず、下方ニコルのみを挟んだ場合について解説していきます。

上方ニコルを入れず、下方ニコルのみの状態のことをオープンニコルと呼びます。この状態では光源から接眼レンズまでの間に1枚しか偏光板が入っていないので、一般的な光学顕微鏡と同じような見え方になります。鉱物の中には見る方向によって色が変化するものがあります。そのような特性を多色性といいますが、この多色性は鉱物を同定するうえで非常に役立ちます(図6)。偏光顕微鏡のステージ(図5参照)は回転させることができるのですが、これによって試料を回して多色性を確認することができます。例えばホルンブレンドは鏡下で淡褐色と濃緑褐色を示します。

その他にオープンニコルでは、屈折率の確認や、鉱物の形劈開(鉱物にみられる規則的な割れ目のこと)の有無によって鉱物の同定を行います。


[図5] 偏光顕微鏡の構造

[図6] ホルンブレンド(普通角閃石)の多色性

[図7-1] オープンニコルで観察した薄片

[図7-2] クロスニコルで観察した薄片

下方ニコルに加え、上方ニコルも入れた状態のことをクロスニコルといいます。サイエンスプロムナードの床展示画像もクロスニコルで観察されたものです。以下ではクロスニコルでの鉱物の見え方について解説していきます。

上方ニコルと下方ニコルは互いに方向の直交する偏光板です。従って、クロスニコルでは、ステージに何も載せていない場合は視野が暗くなります。しかし、クロスニコルで岩石薄片を観察すると、鉱物は鮮やかに見えたり、暗く見えたりします。これはなぜでしょうか?

それを理解するためには鉱物の光学的性質について理解する必要があります。光学的性質の観点から透明鉱物は大きく、光学的等方体と光学的異方体の二つに分類されます。光学的等方体は光の伝わり方がどの方向でも同じ物質、光学的異方体は光の伝わり方が方向によって異なる物質のことです。


 それを理解するためには鉱物の光学的性質について理解する必要があります。光学的性質の観点から透明鉱物は大きく、光学的等方体光学的異方体の二つに分類されます。光学的等方体は光の伝わり方がどの方向でも同じ物質、光学的異方体は光の伝わり方が方向によって異なる物質のことです。


光学的異方体には、入射した光を偏光方向が互いに直交する2つの光に分光する特性があります(図8)。分光した2つの光の屈折率の差複屈折と呼びます。光学的異方体を通過してできた2つの偏光の合成成分のうち、上方ニコルの方向の光が上方ニコルを透過することができるのです(図9)。ステージを1回転させると、同一の鉱物は必ず4度消光しますが、これは直交する2つの光の振動方向と上方ニコルまたは下方ニコルの方向が一致する為です。


また、図8からはaよりもbの光の方が結晶中を長い距離通っていることが分かります。aとbの光の経路の違いは、互いの波の位相(波の位置)がズレていることを意味します。位相のズレた波が互いに近接している場合、波は図10のように引き合ったり足し合わさったりする、「干渉」という現象が発生します(図10)。偏光顕微鏡の場合は光源が白色、つまり様々な波長の光が混ざった状態であるので、干渉によって強まることになる光もあれば弱まる光もあります。どの波長の光が強まるのかは、光学的異方体が持つ複屈折の大きさや結晶の厚さによって変化します。このようにクロスニコルで観察できる鉱物の色のことを「干渉色」と呼びます。


[図8] 入射した光が複屈折を起こして,互いに振動方向が直交する具合に分光している.

[図9] クロスニコルにおける光学的異方体の観察

[図10] 光の干渉

干渉色と岩石薄片試料の厚さ、複屈折の関係はミシェルレビの干渉図表(図11)にまとめられています。横軸は試料の厚さ、縦軸は分光した光の位相のズレ具合(レターデーション)を示しています。また、図中の左下を原点として、放射状に複数の直線が伸びていますが、これは複屈折です。複屈折が高くなるほど、干渉色が鮮やかになっている様子が図11からも分かります。薄片の厚さを一定と考えた場合、干渉色は複屈折のみによって定まります。例えば図中の点aの干渉色が厚さ0.03 mmの試料で観察された場合、その鉱物の複屈折は0.050ということになります。鉱物は光の入射方向(切断方向)によって複屈折が変化するため、干渉色だけで鉱物を同定することはできませんが、鉱物を同定するうえで重要な情報となります。


その他にクロスニコルでは消光角双晶などが観察できます。消光角は消光したときの結晶の劈開方向または伸長方向(結晶形態の直線方向)と鏡下の十字線のなす角度のことをいいます。鏡下で結晶の直線方向が縦(消光角が0°)または横(消光角が90°)になったときに消光することを直消光、それ以外の角度で消光することを斜消光といいます。


双晶とは複数の異なる結晶成長方位で形成された単一の鉱物をいいます。オープンニコルでは結晶の方位を判別することはできませんが、クロスニコルでは干渉色の違いから判別可能になります。双晶を作るかどうかは鉱物によって異なるので、鉱物同定の手がかりになります。


[図11] ミシェルレビの干渉図

(THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPANを参考とした)

[図12] 直消光の例

[図13] 斜消光の例

[図14] オープンニコルでは分からなかった双晶の境界がクロスニコルでは明瞭になっている.

ここまで、偏光顕微鏡におけるオープンニコルとクロスニコルの状態での観察方法について解説してきました。このオープンニコル、クロスニコルによる観察は、纏めてオルソスコープとも呼ばれます。オルソスコープという観察方法に対して、偏光顕微鏡ではコノスコープと呼ばれる観察方法も存在します。この観察形態では新たにコンデンサーベルトランレンズと呼ばれる装置を使用することになります。図16はコノスコープにおける光路を図示したものです。コノスコープでは結晶に様々な方向から光を入射させることで、入射方向による光の進み方の違いを観察します。こうした違いは、コノスコープ像と呼ばれる特有の形状を示す影(アイソジャイヤー)とそれを取り巻く虹色の縞模様(干渉縞として観察されます。ここでは詳細を省きますが、アイソジャイヤーの形状や、干渉縞の特徴から各鉱物の光学的性質を確認することができます。


[図15] 偏光顕微鏡で観察される様々なコノスコープ像

 以上が偏光顕微鏡における鉱物の観察項目です。ここでは、偏光顕微鏡で観察できる鉱物の多色性・屈折率・形状・劈開・干渉色・消光角・双晶の有無・コノスコープ像を説明しましたが、これ以外にも鉱物が持つ様々な光学的性質を観察することができます。このような偏光顕微鏡で観察できる様々な光学的特徴を総合的に組み合わせることで、特定の鉱物を同定することができるのです。 


[図16] 偏光顕微鏡で観察した石灰質ナノ化石

 実は偏光顕微鏡は鉱物観察以外に使用されることもあります。その一例が石灰質ナノ化石の観察です。石灰質ナノ化石とは、海洋に生息していたプランクトンの化石の一種であり、0.001-0.01 mmほどしかない、非常に微細な化石のことです。ドーバ海峡の白い岩壁を知っている方がいるかもしれませんが、あれは大量の石灰質ナノ化石が堆積して形成された、チョークと呼ばれる堆積岩です。研究者たちはこうした石灰質ナノ化石を偏光顕微鏡を用いて観察し、その種類を同定することによってチョークが堆積した時代や、堆積場の古環境などを求めています。 


 偏光顕微鏡は鉱物の光学的特性を上手く活用した顕微鏡です。偏光顕微鏡による鉱物の同定や岩石組織の観察によって、様々な岩石の形成過程を知ることもできます。サイエンスプロムナードの床展示画像にも、岩石や鉱物が保存している地球の歴史の記録が隠されています。ここまで解説を読んでくださった方なら、展示画像から汲み取れる情報があるかもしれません。


[図17] 石英(クロスニコル)

[図18] カリ長石(パーサイト構造, クロスニコル)

[図19] 斜長石(クロスニコル)

[図20] 白雲母(クロスニコル)

[図21-1] 黒雲母と多色性ハロー(オープンニコル)

[図21-2] 黒雲母(クロスニコル)

[図22] ホルンブレンド(普通角閃石, クロスニコル)

[図23] 単斜輝石の双晶(クロスニコル)

[図24] かんらん石(クロスニコル)

[図25] 視界全体が方解石(クロスニコル)

[図26] ざくろ石のオープンニコル下(左)とクロスニコル下(右)