哺乳類の骨格標本

私たち哺乳類は丈夫な骨によって体を支えています。骨はそれ以外にも様々な役割を果たしています。ここでは骨の成り立ち、全身の骨格の種類、動物の立ち方について説明していきます。

 私たち哺乳類は丈夫な骨によって体を支えています。また、骨格筋と呼ばれる筋肉が骨に付着することで体を動かすことができます。さらに、骨はミネラルを貯蔵し、内部の骨髄は造血器官として機能しています。


 サイエンスプロムナードでは、ホンシュウジカ(以下:シカ)とホンドタヌキ(以下:タヌキ)の骨格標本を展示しています。シカは害獣駆除のために間引きされた個体で、タヌキは交通事故による内臓破裂で死亡した個体です。どちらも千葉県君津市に生息していたもので、連絡を受けて引き取りに行き、大学内で解体して骨格標本にしました。


骨の発生

 全身の骨は、膜内骨化または軟骨内骨化によって形成されます。 

 膜内骨化では間充織が直接骨化することで骨ができます。このようにして形成された骨は皮骨あるいは膜骨格と呼ばれ、頭蓋骨と下顎骨の一部や鎖骨が該当します。一方、軟骨内骨化ではまず軟骨が形成され、その後硬骨に置き換わります。このようにして形成された骨は内骨格と呼ばれ、多くの骨が該当します。 


全身の骨格 

 骨格は軸性骨格・胸部骨格・付属骨格の3つに大別されます。 

 

 軸性骨格は頭蓋と脊柱(背骨)です。 

 頭蓋は頭蓋骨・下顎骨・舌骨で構成されています。頭蓋骨はいくつかの骨からなり、成長するにつれて癒合されていきます。また、頭蓋は脳を保護する領域の脳頭蓋(神経頭蓋)と顔面を構成する領域の顔面骨(内臓頭蓋)に分けられます。頭蓋の構造上の特徴は哺乳類の分類の決め手の1つとなっています。また、頭蓋からその動物の食性など暮らし方を推測することができます。 

 動物の食性は肉食性・草食性・雑食性の3つに分かれています。肉食性動物は鳥獣・魚・昆虫など動物性タンパク質を摂取します。肉を切り裂くため、犬歯や裂肉歯など先の尖った鋭い歯が発達しています。草食性動物は草・木のみ・果実・種子など植物質のものを摂取します。植物の葉をすりつぶすため、咬合面が平たい臼歯が発達しています。雑食性動物では食物を噛み切るための切歯が発達しており、臼歯と併存しています。 

 哺乳類の歯は、生える場所によって機能や形態が分化しています。上顎では前顎骨に生えるのが切歯です。上顎骨の前方で前顎骨との縫合部付近に生えるのが犬歯です。上顎骨で犬歯の後方に生えるのが小臼歯・大臼歯です。下顎では上顎と噛み合わせたとき上顎犬歯の前に生えているのが犬歯です。その犬歯より前に生えているのが切歯、後ろに生えているのが小臼歯・大臼歯です。 


 現存の哺乳類は20の目に分類されています。タヌキは食肉目(ネコ目)に、シカは鯨偶蹄目(ウシ目)に、ヒトは霊長目(サル目)に属しています。 


 タヌキは肉食に近い雑食性で肉を食いちぎる犬歯 (牙)が発達しています。シカは下顎にしか切歯がありません。これは鯨偶蹄目のうち反芻を行う動物の特徴です。そのため、鯨偶蹄目でも反芻を行わないイノシシ(ブタ)や奇蹄目のウマは上顎に立派な切歯が生えています。また、シカは草食性で葉を食いちぎる下顎の切歯(前歯)とすりつぶす臼歯 (奥歯)がよく発達しています。切歯と臼歯の間には犬歯にあたる歯列が無く、頬に食いちぎった葉をためることができます。 



 脊柱は椎骨と呼ばれる短い骨が頭蓋から尾の先までいくつも連なったものです。四足歩行や肺呼吸に伴って5つの部分に分化しました(頭蓋側から順に頸椎・胸椎・腰椎・仙骨・尾椎)。 

 頸椎は首の骨で、哺乳類では基本的に7個の骨からなります。頭部を支えており、腹側に湾曲しています。例外的に海牛目(ジュゴン目)のマナティーが6個、異節目(アリクイ目)のミユビナマケモノが9個の頸椎をもっています。キリンも頸椎の数は7個で、それぞれが縦長になって長い首を実現しています。クジラの仲間は水圧のかかる水中で暮らすため、体が魚と同様に流線型となり首は外見上認められませんが、頸椎は7個です。(ただし、互いに癒合して1個の骨のようになっています。) 前方の環椎(第一頸椎)と軸椎(第二頸椎)は他の5つの頸椎とは異なる形をしています。環椎は環状構造をもち、棘突起はもちません。軸椎は多くの筋が付着する大きな棘突起と、環椎の回転の軸となる歯突起をもちます。この2つの骨のおかげで頭を左右に回すことができます。 

 胸椎は胸部を構成している骨で、肋骨と関節しています。背中側には棘突起が伸びており、様々な筋が付着しています。 

 腰椎は腰の骨で、腹側に湾曲しており、体幹の屈伸運動に関わっています。直立二足歩行を行うヒトではこのS字上の湾曲によって下方にかかる負荷を分散させています。腰椎には肋骨は無いですが、肋骨の名残である横突起が発達しています。 

 仙骨は後肢を軸性骨格につなぎ止める寛骨が結合する部分です。いくつかの仙椎が生後癒合して1つの骨となっており、骨盤の上面を形成しています。タヌキでは3個、シカでは4個の骨が癒合しています。 

 尾椎は尾の骨で、数は種によって大きく異なり、同種間で数が異なることもあります。 


 胸部骨格は胸椎・肋骨・胸骨で構成されています。数本の肋骨が背中側で胸椎の横突起と関節し、腹側で一部が胸骨と関節することで胸部を囲んでいます。肋骨は背中側が骨質の肋硬骨、腹側が軟骨質の肋軟骨からなります。胸骨は脊椎動物のうち地上歩行する両生類以上で発達したものです。そのため、哺乳類でも水中生活に適応したクジラやカイギュウでは二次的に消失しています。胸部骨格の下端には横隔膜と呼ばれる筋肉が付着しており、底のようになっています。肋間筋は肋骨同士を二重三重に異なる向きで結びつけています。これらの筋肉の収縮・弛緩によって胸郭内の体積を変化させることができます。肺は自分自身で体積を変えることはできないため、哺乳類は胸郭の体積変化を利用して呼吸を行っています。 


 付属骨格は四肢とそれを軸性骨格につなぎ止める部分です。 

 哺乳類の前肢帯は肩甲骨と鎖骨で構成されており、烏口骨は退化しています。また、鎖骨は前肢を自由に動かせるサル、ヒト、コウモリ、モグラなどでのみ発達しています(霊長目・翼手目(コウモリ目)・真無盲腸目)。齧歯目にも鎖骨はありますが、モルモットでは消失しています。ネコやウサギなどでは退化しかかった鎖骨が見られます(食肉目・兎形目)。タヌキとシカはどちらも鎖骨はありません。 

 こうした鎖骨が無い動物では前肢をつなぎ止めているのは肩甲骨です。肩甲骨はどの骨とも関節せず、筋肉によって体幹と強く結びつけられています。そのため、前肢を動かすと肩甲骨も大きく位置が変わります。また、肩甲骨の幅を広くし、肩甲棘を発達させることで、筋肉の付着領域を大きくしています。 

 前肢は上腕骨・前腕骨格(橈骨・尺骨)・手根骨・中手骨・指骨から構成されます。前腕骨格は親指側が橈骨、小指側が尺骨です。適度に湾曲したこれら2本の骨があるおかげで、腕を回転させることができます。


 手根骨は複数の骨からなる手首の骨で、前腕骨格と関節しています。その次に関節するのは中手骨で、さらに指骨が関節しています。 


 後肢帯は各1対の腸骨・恥骨・坐骨が癒合して形成された寛骨で、仙骨とともに骨盤を形成しています。寛骨が後肢を軸性骨格につなぎ止めており、大腿骨の骨頭と関節しています。後肢は大腿骨・下腿骨格(脛骨・腓骨)・足根骨・中足骨・指骨で構成されています。大腿骨の膝の部分には膝蓋骨が関節しています。前肢と後肢を構成する骨は相同です。 

 

 タヌキの四肢の骨格はヒトに近い形をしていますが、シカはヒトとは大きく異なります。シカは尺骨が後方に突出して肘となっています。また、中指と薬指がよく発達しており、対して人差し指と小指は痕跡的です。1本のように見える中手骨は中指と薬指につながる手根骨が2本合わさってできています。裏側には短い骨が2本くっついています。これは人差し指と小指につながるはずだった中手骨の名残です。さらに下腿骨格の腓骨も痕跡的です。指骨と中手骨あるいは中足骨が連結する関節面には人工の滑車のようにつるつるの単純な曲面ができています。このような関節は左右への回転の自由度が全く無いため、走りに特化しています。



 様々な動物の立ち方を体験してみましょう。 

 手のひらを机にぴったりとつけてみてください。この状態で立っているのが私たちヒトやクマなのです。 

 次に指は机につけたまま手首の側を上に持ち上げていってください。最初に親指が机から離れると思います。この状態で立っているのが、タヌキなど多くの動物です。 

 さらに手首を持ち上げます。そうすると人差し指と小指が離れます。その離れた人差し指と小指を手のひら側に持ってきて、再び机と接してみてください。指4本で立っている状態です。前方の中指と薬指、そしてそれを後方で支える人差し指と小指、これが偶蹄目の立ち方です。シカなどでは後ろに回った人差し指と小指はほとんど退化して、実際の歩行には関与していません。さらに手首を持ち上げて小指を離して立っているのが奇蹄目、もっと極端に中指一本で立っているのが奇蹄目のウマです。 


参考文献