じゃんけんマシーン

【統計科学は予測の科学】 

じゃんけんマシーンは,統計学の知識を使って挑戦者の手の出し方のクセを掴みます。

あなたは勝つことができますか? 

【じゃんけんマシーンのしくみ】 

じゃんけんマシーンは統計学の知識を使ってじゃんけんをする人工知能です。次の4つのステップを繰り返してじゃんけんをします。 

(1)挑戦者の手の規則性を見つける 

…じゃんけんを繰り返した記録から,どの手を出す回数が多いのか,「勝ちまわり」、「負けまわり」、「繰り返し」のどの傾向に近いか,などといった規則性を探します。 

※「勝ちまわり」=「グー」→「チョキ」→「パー」→「グー」→…という出し方 

※「負けまわり」=「グー」→「パー」→「チョキ」→「グー」→…という出し方 

(2)次に出す手を決める 

…挑戦者が次にどの手を出しそうかという確率から,次にどの手を出すと勝てそうかを考え,出す手を選びます。 

(3)挑戦者(あなた)の手を待つ。 

(4)データを記録する。 

じゃんけんマシーンはどうやって出す手を決めているか 

じゃんけんマシーンは,挑戦者の出す手のパターンを見て自分の出す手の確率を変化させます。相手がチョキを出す確率を0.50と見れば,それを活用し,グーを出す確率を0.50にします。イメージとしては,10本中グーが5本入っているくじを引く場合と同じです。グーを引く確率が高くてもそれが引かれるとは限らないため,マシーンが負けることもあります。 


もとになる理論は「ゲーム理論」】 


 「ゲーム理論」は,利害関係にある複数の人々がどのように意思や行動を決定するのか,ということを理論的にゲームの形で表したものです。「『ミニマックス定理』の証明」(ジョン・マイノン,1928年)と『ゲームの理論と経済行動』(ノイマンとオスカー・モルゲンシュテルンの共著,1944年)によって基礎が確立されました。現在でも,経済・軍事・行動生態学などの幅広い分野で応用されています。 

 参加者がちょうど二人の時,彼らの行動決定についての理論を「2人ゼロ和ゲーム」といいます。その典型がじゃんけんです。じゃんけんをするとき,相手の出す手がわかれば有利で,相手に自分の出す手がバレていれば不利になり,有利でも不利でもないのは引き分けのときです。「グー」,「チョキ」,「パー」を出す確率がそれぞれ1/3であれば,理論的には勝負は引き分けとなります。 

これを実行するには,どの目も同じ確率で出る理想のサイコロを振る必要がありますが,現実にあるサイコロは形がずれたりしていて出る目の数に偏りがあり,人間が決めたものでは意思が入ってしまいます。そこで,理想のサイコロとして使うのが「乱数」です。乱数は,「ランダムな数」,「でたらめな数」という意味の言葉です。このような数の列は,意思などが入ってしまうため,人間には作り出すことができません。そして,ルーレットやサイコロを用いる方法は信頼性がなく,時間がかかるのが欠点です。そこで,現在では,コンピュータで関数を使って「疑似乱数」を発生させる方法が主に使われています。この方法なら,人間の意思に関わらず,ランダムな数の列を作ることができます。コンピュータによって,理想のサイコロを手に入れることができるのです。 


ゲーム理論の詳しいお話】 


 「囚人のジレンマ」と呼ばれる,伝統的なゲーム理論のモデルがあります。 



この状況では,全体の刑期は相手の協力状況により決定します。しかし,自分の刑期について考えてみると,相手がどう答えようとも,裏切った方が刑期は軽くなります。この「裏切り」行動は,なんと,動物の中でも行われています。 

ニワシドリ(bowerbird)は,オス鳥がメスのためにとても手の込んだ巣を作るのですが,それを作っている間に,他のオスのものを横取りしたり,壊したりします。全てのオスが協力してそれぞれが完全な巣を作れば全員それなりに得をしますが,「裏切り」行動をするオスがいると,完全な巣が出来ないオスが出てきます。このことから横取り(=裏切り)をするオスがより得をする,ということがわかります。当然,他のオスより得をしたいオスがいるため,「みんなで協力する」ということが起こらないのです。 

 しかし,動物も人も協力は絶対しない方が得か?というと,そんなことはありません。「囚人のジレンマ」にあたる状況が繰り返される場合,次第に,誰が協力し,誰が裏切りをするか,ということがわかってくるため,協力する方が得になります。つまり,協力しそうな人とは協力し,裏切りそうな人には裏切る,という「仕返し」ができます。生き物は裏切りと協力を状況によって使い分けて生活しています。

 

この「じゃんけんプログラム」は統計数理研究所で開発されたものであり,統計数理研究所の御好意により,このサイエンスプロムナードでの利用の許可をいただいております。 

このプログラムを実行しているパソコンおよびディスプレイは,日立製作所公共システム営業統括本部の御好意により,この展示会場に貸し出して頂いております。