ファノ平面
射影平面においては最も少ない7つの点と線からなるファノ平面は射影特殊線形群(群論)、2-(7,3,1)デザイン(デザイン理論)、ハミング符号(符号理論)と呼ばれる対象を通じて数学同士を結び付ける重要な役割を果たしています。ファノ平面を通していつもと違う数学の魅力的な一面を垣間見ることにしましょう。
射影平面においては最も少ない7つの点と線からなるファノ平面は射影特殊線形群(群論)、2-(7,3,1)デザイン(デザイン理論)、ハミング符号(符号理論)と呼ばれる対象を通じて数学同士を結び付ける重要な役割を果たしています。ファノ平面を通していつもと違う数学の魅力的な一面を垣間見ることにしましょう。
有限幾何学の創始者の1人として有名なジーノ・ファノ(Gino Fano, 1871~1952)の名を冠したファノ平面は最も簡単な有限射影平面です。有限射影平面とは以下の二つの条件を満たす有限個の点と直線の配置で定義されます。
有限幾何学の創始者の1人として有名なジーノ・ファノ(Gino Fano, 1871~1952)の名を冠したファノ平面は最も簡単な有限射影平面です。有限射影平面とは以下の二つの条件を満たす有限個の点と直線の配置で定義されます。
- 任意の2点を通る直線は、ちょうど1本だけある。
- 任意の2直線は、ちょうど1点で交わる。
- 少なくとも4個の点があり、それらのうちのどの3点も同一直線上にはない。
ここで注意してもらいたいのは、有限射影平面を考える上では「どの点がどの直線上にあるか、どの直線がどの点を通るか」という点と直線の関係性のみが重要であって、直線がまっすぐであるかや、直線上で点がどのような順序で並んでいるかは気にしていないということです。実際にファノ平面がこの条件を満たしているのかみてみると、確かに条件を満たしており有限射影平面と言えます。この有限射影平面は直線上にある点の個数で分類されています。もし、それぞれの直線がn+1個の点を含む場合は「この有限射影平面は位数nをもつ。」と言います。ファノ平面を見てみると、全ての直線上に3個ずつ点があるので、ファノ平面は位数2をもつことになります。
ここで注意してもらいたいのは、有限射影平面を考える上では「どの点がどの直線上にあるか、どの直線がどの点を通るか」という点と直線の関係性のみが重要であって、直線がまっすぐであるかや、直線上で点がどのような順序で並んでいるかは気にしていないということです。実際にファノ平面がこの条件を満たしているのかみてみると、確かに条件を満たしており有限射影平面と言えます。この有限射影平面は直線上にある点の個数で分類されています。もし、それぞれの直線がn+1個の点を含む場合は「この有限射影平面は位数nをもつ。」と言います。ファノ平面を見てみると、全ての直線上に3個ずつ点があるので、ファノ平面は位数2をもつことになります。
では、この位数と射影平面の点の個数と直線の本数にはどのような関係があるでしょうか。点Oとこれを通過しない直線Lで考えてみましょう。位数が n のとき、有限射影平面である直線L上には n+1 個の点が存在していることになります。従って点Oから直線L上の点に直線を引くと n+1 本の直線がかけます。この状況は先の有限射影平面の定義を満たしています。このとき点の総数は何個あるでしょうか。それぞれの直線には点O以外に n 個の点が存在するので、直線上にある点O以外の n×(n+1) 個の点に、点Oの加えた n2+n+1 個の点が存在することになります。ここで点と直線の「双対性」という性質から直線は点と同じだけの n2+n+1 本だけあることがわかります。実際、ファノ平面で見てみると位数が 2 だったので 22+2+1=7 、すなわち 7 個の点と 7 本の直線があるとなり、確かに正しい結果が得られています。
では、この位数と射影平面の点の個数と直線の本数にはどのような関係があるでしょうか。点Oとこれを通過しない直線Lで考えてみましょう。位数が n のとき、有限射影平面である直線L上には n+1 個の点が存在していることになります。従って点Oから直線L上の点に直線を引くと n+1 本の直線がかけます。この状況は先の有限射影平面の定義を満たしています。このとき点の総数は何個あるでしょうか。それぞれの直線には点O以外に n 個の点が存在するので、直線上にある点O以外の n×(n+1) 個の点に、点Oの加えた n2+n+1 個の点が存在することになります。ここで点と直線の「双対性」という性質から直線は点と同じだけの n2+n+1 本だけあることがわかります。実際、ファノ平面で見てみると位数が 2 だったので 22+2+1=7 、すなわち 7 個の点と 7 本の直線があるとなり、確かに正しい結果が得られています。
こうなると一般化して、n の全ての値に対して位数 n の有限射影平面は存在するのか確かめたくなります。残念ながら全ての n に対して有限射影平面が存在しないことがわかっていますが、どの位数 n に対して有限射影平面が存在するかは今も未解決問題として研究対象となっています。
こうなると一般化して、n の全ての値に対して位数 n の有限射影平面は存在するのか確かめたくなります。残念ながら全ての n に対して有限射影平面が存在しないことがわかっていますが、どの位数 n に対して有限射影平面が存在するかは今も未解決問題として研究対象となっています。
展示で紹介しているシフト表や石の置き方というような、実験などにおいてミスを減らし、正確に実験を行うための実験計画(design of experiments)の方法に由来する数学を「デザイン」といいます。数学的に言えば有限集合Vにおいて、ある規則を満たす部分集合の族B(ブロック)が指定されたもののことを言い、現在では組合せ数学の一分野をなす理論となっています。この下で、v 品種からなる集合を b 個のブロックに振り分けることを考え、それぞれのブロックは全て同数(k 種類)の要素をもち、それぞれの品種は全てが同数(r 個)のブロックに現れるという条件を満たすデザインをブロックデザインと言います。ただし、各ブロックは全ての品種は含まない(不完備)とします。
展示で紹介しているシフト表や石の置き方というような、実験などにおいてミスを減らし、正確に実験を行うための実験計画(design of experiments)の方法に由来する数学を「デザイン」といいます。数学的に言えば有限集合Vにおいて、ある規則を満たす部分集合の族B(ブロック)が指定されたもののことを言い、現在では組合せ数学の一分野をなす理論となっています。この下で、v 品種からなる集合を b 個のブロックに振り分けることを考え、それぞれのブロックは全て同数(k 種類)の要素をもち、それぞれの品種は全てが同数(r 個)のブロックに現れるという条件を満たすデザインをブロックデザインと言います。ただし、各ブロックは全ての品種は含まない(不完備)とします。
これを平面図形に対応させると、点が有限集合Vの要素、直線がブロックと考えることができます。つまり、点の個数が v 個、直線の本数が b 本あり、それぞれの直線上には k 個の点があり、n 点を同時に通る直線がちょうど r 本あるという条件を満たす平面ということになります。このような組み合わせ構造を n-(v,k,r)デザインといい、ファノ平面は 2-(7,3,1)デザインを表していると言えます。
これを平面図形に対応させると、点が有限集合Vの要素、直線がブロックと考えることができます。つまり、点の個数が v 個、直線の本数が b 本あり、それぞれの直線上には k 個の点があり、n 点を同時に通る直線がちょうど r 本あるという条件を満たす平面ということになります。このような組み合わせ構造を n-(v,k,r)デザインといい、ファノ平面は 2-(7,3,1)デザインを表していると言えます。
ファノ平面の不思議①とデザイン理論の関係性
ファノ平面の不思議①とデザイン理論の関係性
ファノ平面の不思議①の設定は「7 人の従業員がいて、同じ曜日には 3 人が出勤し、1 週間(7 日間)のうち各曜日において 1 日に 2 人ずつ出勤するシフトを作成する」というデザインでした。これは、曜日が直線、人を点に対応させることができ、点の個数が 7 個、一直線上にある点の個数が 3 個の組み合わせ構造であり、2 点を通る直線が 1 本あるとすることができるので、これは 2-(7,3,1)デザインと考えることができます。これはファノ平面と同じ組み合わせ構造を持つので、ファノ平面が2-デザインの例であることをこの不思議①の展示から理解することができます。
ファノ平面の不思議①の設定は「7 人の従業員がいて、同じ曜日には 3 人が出勤し、1 週間(7 日間)のうち各曜日において 1 日に 2 人ずつ出勤するシフトを作成する」というデザインでした。これは、曜日が直線、人を点に対応させることができ、点の個数が 7 個、一直線上にある点の個数が 3 個の組み合わせ構造であり、2 点を通る直線が 1 本あるとすることができるので、これは 2-(7,3,1)デザインと考えることができます。これはファノ平面と同じ組み合わせ構造を持つので、ファノ平面が2-デザインの例であることをこの不思議①の展示から理解することができます。
ファノ平面の不思議②と射影幾何学の関連
ファノ平面の不思議②と射影幾何学の関連
歴史的には絵画の遠近法の研究から生まれ、ジャン=ヴィクトル・ポンスレ(Jean-Victor Poncelet,1788~1867)によって創始された射影変換において不変な図形の性質を研究する数学を射影幾何学と呼びます。射影幾何学における平面は射影平面と呼び、平行な直線は交わらないが無限遠で交わり、この交点をその平面に加えた平面のことを言います。この射影幾何学において点とは 1 つのベクトルで張られる 1次元空間、直線とは 2 つのベクトルではられる 2 次元空間に対応させ意味づけをします。
歴史的には絵画の遠近法の研究から生まれ、ジャン=ヴィクトル・ポンスレ(Jean-Victor Poncelet,1788~1867)によって創始された射影変換において不変な図形の性質を研究する数学を射影幾何学と呼びます。射影幾何学における平面は射影平面と呼び、平行な直線は交わらないが無限遠で交わり、この交点をその平面に加えた平面のことを言います。この射影幾何学において点とは 1 つのベクトルで張られる 1次元空間、直線とは 2 つのベクトルではられる 2 次元空間に対応させ意味づけをします。
では、射影平面においてこの不思議②で考えた図を考えてみましょう。今 3 つの円にはX、Y、Zと名付けてあるとして、この円からなる3つのエリアに次のようなルールで成分を振ります。
では、射影平面においてこの不思議②で考えた図を考えてみましょう。今 3 つの円にはX、Y、Zと名付けてあるとして、この円からなる3つのエリアに次のようなルールで成分を振ります。
- Xに含まれる場合、第 1 成分を 1 にする。
- Yに含まれる場合、第 2 成分を 1 にする。
- Zに含まれる場合、第 3 成分を 1 にする。
すると、エリアを図のように名づけることができます。この成分を見てみると 7 つのエリアは異なる方向のベクトルを表すので、射影平面における点とみなされます。これらに対し、任意の 2 つのベクトルを組み合わせて張られる 2 次元空間は全部で 7 個あり、この 2 つのベクトルの組み合わせを直線と呼びます。これを前提として不思議②の操作を見てみると、7 つのエリアに 3 つの石をおくことは 3 つのベクトルを指定したことになります。また、どの円の中にも偶数個の石があるように配置することは、指定した異なる 3 つのベクトルの成分は 1 を 2 つ持ち、0 を 1 つもつことになるので、3 つのベクトルのうち 2 つのベクトルの和を取ることで残りのベクトルを作ることができます。つまり、このように 3 つのベクトルを指定することで射影平面における一つの直線を表していることがわかります。一つ例を確認してみましょう。(1,0,0) と (1,1,1) で張られる平面を考えるとき、(1,0,0)+(1,1,1)=(0,1,1) という計算から (1,0,0) と (1,1,1) で表される直線上には同時に (0,1,1) も存在することになり、{(1,0,0),(1,1,1),(0,1,1)} がこの射影幾何の直線を表すことがわかります。ただし、この計算は 0+0=1 、0+1=1 、1+0=1 、1+1=0 というような 2 元体上の計算(二進法の計算)であることに注意しましょう。この計算において重要なことは、各成分の和が 0 (偶数)となるような3つのベクトルが射影平面の直線を定義づけているということです。ファノ平面は射影幾何学として射影平面の例であることがこの不思議②から理解できます。
すると、エリアを図のように名づけることができます。この成分を見てみると 7 つのエリアは異なる方向のベクトルを表すので、射影平面における点とみなされます。これらに対し、任意の 2 つのベクトルを組み合わせて張られる 2 次元空間は全部で 7 個あり、この 2 つのベクトルの組み合わせを直線と呼びます。これを前提として不思議②の操作を見てみると、7 つのエリアに 3 つの石をおくことは 3 つのベクトルを指定したことになります。また、どの円の中にも偶数個の石があるように配置することは、指定した異なる 3 つのベクトルの成分は 1 を 2 つ持ち、0 を 1 つもつことになるので、3 つのベクトルのうち 2 つのベクトルの和を取ることで残りのベクトルを作ることができます。つまり、このように 3 つのベクトルを指定することで射影平面における一つの直線を表していることがわかります。一つ例を確認してみましょう。(1,0,0) と (1,1,1) で張られる平面を考えるとき、(1,0,0)+(1,1,1)=(0,1,1) という計算から (1,0,0) と (1,1,1) で表される直線上には同時に (0,1,1) も存在することになり、{(1,0,0),(1,1,1),(0,1,1)} がこの射影幾何の直線を表すことがわかります。ただし、この計算は 0+0=1 、0+1=1 、1+0=1 、1+1=0 というような 2 元体上の計算(二進法の計算)であることに注意しましょう。この計算において重要なことは、各成分の和が 0 (偶数)となるような3つのベクトルが射影平面の直線を定義づけているということです。ファノ平面は射影幾何学として射影平面の例であることがこの不思議②から理解できます。