凹面鏡

ボルマトリクスミラージュ

~目の前にあるのに触れない?~  

ボルマトリクスミラーは凹面鏡を二つ重ね合わせた箱状の展示物で、実際には内部の底にある物体(展示ではサイコロ)があたかも箱の上に浮き上がっているかのように見えます。この現象には、焦点からきた光を反射すると平行光線になるという凹面鏡の性質が関わっており、展示を通して凹面鏡の性質や物体が目に見える仕組み、立体視の不思議さを学習、体感することができます。

図1 ボルマトリクスミラー(斜め上)

2 ボルマトリクスミラー(上)

図1をご覧ください。赤と緑の二つのサイコロが白い箱の上に置かれているように見えると思います。しかしながら、実際に触ってみようとするとそれらのサイコロを触れることはできません。ここで図2をご覧ください。実は箱の上に置かれているように見えたサイコロは触れることができない像で、本物のサイコロは箱の中にあります。それではなぜ触れることのできない像が浮かび上がるのでしょうか。 


 まず答えを言う前に物体が目に見える仕組みを説明します。図3のように光が物体に当たるとその光は様々な方向に反射されます。この際、光の一部は眼球の中にある凸レンズ(水晶体)に当たり、光が屈折して(曲がって)、眼球の奥にあるスクリーン(網膜)にります。そして、一点ではなく、物体の表面全てで同様の反射が起きることにより物体の形が正確に分かることになります。 


物体が目に見える仕組みについて説明したところで、先程の答えを言うと、この箱の内側が全て鏡になっているからです。この内側の曲がった鏡を凹面鏡といい、その性質を利用しています。凹面鏡は焦点からきた光を反射すると平行光線(今回の場合は地面に垂直)になるという性質があります。逆に言うと平行光線が反射すると全て焦点に集まるとも言えます。これにより、まず物体(①)から出た光が上の凹面鏡に当たり、地面垂直に下りていきます。そして、下の凹面鏡に当たると全ての平行光線が焦点(②)に集まり、最後に目の中へ光が進むことになります。この際、②で光が一点に集まり実像を結ぶので物体(①)からではなく②から光が来たかのように認識されるのです。ゆえに最初に見えたサイコロの像はこの実像であり、触れることができないのです。

 

 この白い箱はボルマトリクスミラーと呼ばれており、凹面鏡のトリックにより内部の底にある物体が、あたかも浮き上がっているかのように見えました。このような立体視を可能にする技術は今回のようなアナログなものだけではなくデジタルなものも研究されているそうです。こうした技術が実現し、私たちの日常生活に入り込んだ際、何を「現実」と感じるのか、私たちの認識は大きく変わるのかもしれません。


【参考文献】 

「計算機と自然、計算機の自然」,参照 2023/09/21, 日本科学未来館,